熱に対応した電装・電気設計
熱に対応した電装・電気設計として電装・電気機器の制御盤及び温度の与える影響を考えていきます。
設計時の安全率等は企業によって異なると思いますので、参考程度で読んでいただけたら幸いです。
熱が与える制御部品・電子部品の影響
影響として考えられるのは以下の3つです。
・安全
・機能
・寿命
寿命低下はある温度での化学反応の速度を予測する式である「アレニウスの式」で表せます。
グリスやオイルなどの劣化によりそれを使用している部品の寿命が低下します。
しかもその寿命は温度と比例ではなく、温度上昇に伴って加速的に寿命が縮まります。
電子部品では特にコンデンサがよく話に上がります。
・安全
基本的に熱としては肌に接触、雰囲気中の熱によるものが安全になっているかどうかになります。
低温やけど(40℃程度のものに長時間肌を接触)
急激な温度上昇
高温状態と気づかない状態で接触
これ以外にも、温度上昇により有害なガスが発生する場合は考慮に入れる必要があります。
・機能
ここでは特に「マイグレーション」について説明したいと思います。
マイグレーションには熱以外にも要素はあります。そもそもマイグレーションとは、配線や電極として使用した金属が絶縁物の上を移動し、絶縁抵抗値が低下して絶縁不良により故障・機能低下がおこることです。
マイグレーションには3種類があります。
ストレスマイグレーション
・金属が温度変化の環境下で応力を受けることによるマイグレーション
・不純物等による空孔(ボイド)による,配線の抵抗増加や断線を招く現象
エレクトロマイグレーション
・電子運動によるマイグレーション
・温度が高い際におきやすい
・電流密度が高い際におきやすい
イオンマイグレーション
・電気化学的な(電解現象に伴う)マイグレーション
・湿度が高い際におきやすい
熱に対して制御部品・電子部品は「寿命」「安全」「機能」を考える必要がある
熱による設計として他にも細かく書かれている本の参考になります。
もっと知りたい方は参照してください。
エレクトロニクスのための熱設計完全入門
制御装置・制御盤内温度設計
熱自体の考え方は「熱の考え方」の話で説明したいと思います。
今回は機器の発熱と電装盤・制御機器箱の放熱の関係を例として説明していきます。
同様の考え方は様々なところで使えます。
制御装置・制御盤内の温度設計で考えなければならない内容は
・放熱量計算
発熱量計算、放熱量計算となります。
設計の流れとしては以下になります。
流れとしては「発熱量計算」→「(箱の)放熱量計算」をします。
ここで「発熱量」>「放熱量」の場合、「放熱設計」として換気口を設けて「自然換気放熱量計算」をします。
「発熱量−放熱量」以上の(安全率を考慮の上で)換気での放熱量があるか考えます。
それでも足りない場合は、換気口にファン等を設けた「強制換気放熱量計算」をしていきます。
それでは「発熱量」「放熱量」の計算を考えていきます。
以下は発熱と放熱のイメージ図です。
・発熱量計算
機器自体の発熱量の合計になります。
発熱量がわからない場合は、機器自体の消費電流やロス電流から消費電力[W]を求めてください。
制御盤の例としてあげていきます。
・放熱量計算
箱自体からの周囲に放熱する温度になります。
ここでは熱通過率U[W/m2/K]を使用しています。
一般的な制御機器箱(鉄・塗装)は4〜6[W/m2/K]程度ですが環境によっても多少変化します。
ここでの箱内目標温度は制御機器の設計上の寿命計算している温度にします。
複数台の制御機器がある場合はその機器が寿命計算で算出している温度の中の最も低い温度にします。
また、有効放熱面積は箱の表面積になります。
例えば、盤内目標温度を55[℃]、大気温度40[℃]、有効放熱面積2[m2]、熱量1000[W]とすると、熱通過率5[W/m2/K]とすると
Qr=5*2*(55-40)=150[W]
箱自体からの放熱量Qr<機器の発熱量Qの場合は放熱設計が必要になります。
この例では(1000-150)=850[W]のさらなる放熱が必要になります。
熱通過率の推定の必要のない方は「放熱設計」まで飛ばしてください。
発熱量が放熱量を(安全率を掛けて)若干超える場合は、熱通過率の高い材質に変える、ヒートシンク等で有効放熱面積を増やすなどの対応が必要になります。
それでも発熱量が超えている場合は次に説明する「放熱設計」を考える必要があります。
熱通過率の推定
熱通過率がわからない場合は以下より推定してください。
下は箱の内部と外部の断面図になります。
で表されます。熱の伝わり方として、内部の温度T→板表面Th1→板外面Th2→外部の温度(大気温度)T0に伝わっていきます。
それぞれの伝達率は箱内部の熱伝達率h1[W/m2•K]、箱外部の熱伝達率h2[W/m2•K]、板の伝達率は箱の板厚t[m]、箱の熱伝導率λ[W/m•K]から導き出されます。
これを求めるのには以下が必要で
熱伝達率h1は箱内側の対流熱伝達率ha、熱伝達率h2は箱外側の対流熱伝達率hb+放射熱伝達率hεから求めます。
対流熱伝達率ha、hbは流体の流速により変わります。
下記は空気の熱伝達率と風速の関係表です。
また、放射熱伝達率hεは板から発生する放射熱による放熱になります。
5.67*10^8はシュテファンボルツマン定数と呼ばれるものです。
εは放射率になり0.6〜0.9程度で良いと思います。また、Th1,Th2を使用しています。
正確ではないですが推定では箱内外の中間(T-T0)/2+T0程度で良いと思います。
例:放射率0.8、Th2,47.5[℃],箱内の大気の流速1[m/s],箱外の大気の流速0.5[m/s]、箱板厚0.003[m]、箱板伝導率50[W/m•K]の場合
大気の流速1[m/s]→対流熱伝達率8[W/m2•K]
大気の流速0.5[m/s]→対流熱伝達率4.5[W/m2•K]
h1=8[W/m2•K]
h2=4.5+5.67*10^-8*0.8*((47.5+273.15)^4-(40+273.15)^4)/(47.5-40)=4.5+5.78=10.28[W/m2•K]
t/λ=0.003/50=0.00006[W/m2•K]
U=1/(1/8+0.00006+1/10.28)=4.50[W/m2•K]
考え方は「熱の考え方」で説明したいと思います。
放熱が間に合わないなら「自然換気」「強制換気」での放熱を考える必要がある
制御装置・制御盤内の放熱設計
箱の放熱量の計算まで行いました。
「発熱量」>「放熱量」の場合、これから説明する方法をとります。
この下で話す換気での放熱量は「(換気での)放熱量」>「発熱量」−「(箱の)放熱量」である必要があります。
・自然換気での計算「自然換気放熱量計算」
自然換気放熱の一例図です。自然換気放熱では、換気口を設けて箱内の温度を周辺温度に近づける方法になります。気体の移動は自然に任せます。
放熱量の計算としては以下になります。
通常、雰囲気は空気だと思います。空気の密度は1.154[kg/m3],空気の比熱は1018[J/kg℃]になります。
例えば、箱内目標温度を55[℃]、箱内天井付近温度を58[℃]、大気温度40[℃]、実行換気口面積0.05[m2]、吸気口-排気口の高さ0.3[m]とすると
放熱量Q=1018*1.154*0.05*√((2*9.8*0.3*(55-40))/(273.15-40))*(58-40)=561.12[W]
発熱量1000[W]>箱の放熱量150[W]+自然換気放熱量561.12[W]=711.12[W]なので、さらなる放熱が必要になります。
このように発熱量が放熱量を(安全率を掛けて)若干超える場合は、実効換気口面積を増やす、排気口ー吸気口の高さの差を大きくするなどの対応が必要になります。場合により周囲温度の制限(使用上の温度制限)を設ける方法も考える必要があります。対応ができない場合は次の強制換気での放熱を考えていきます。
・強制換気での計算「強制換気放熱量計算」
強制換気放熱の一例図です。強制換気放熱では、自然換気放熱と違いファン等で強制的に気体を動かし箱内の温度を周辺温度に近づける方法になります。
計算としては以下になります。
こちらも通常、雰囲気は空気だと思います。その場合は空気の密度は1.154[kg/m3],空気の比熱は1018[J/kg℃]になります。
例えば、残り必要放熱量が(発熱量1000[W]−総放熱量711.12[W])=288.88[W]、箱内目標温度を55[℃]、大気温度40[℃]とすると、
V=288.88/(1.154*1018*(55-40))
=0.0164[m3/min]というように計算ができます。(この値は風量です)
選定する場合はこれに安全率を掛けたそれ以上のファンを見つけてください。
選定するファンがない場合や換気口を広げたりしても熱量が超えてる場合は、周囲温度の制限(使用上の温度制限)を設けたりして設計範囲内の温度に抑える必要があります。
放熱が間に合わないなら「自然換気」「強制換気」での放熱を考える必要がある
このように設計上で事前に熱の問題を解決する必要があります。
目に見えず扱いにくいのですが、やっておかないと後で大変な目に遭ってしまいます。
それぞれ実施したものと比較して設計精度を高めていきましょう。
今まで話した内容よりも様々な角度から熱による設計として書かれている本の参考になります。
電気系設計者に使える熱設計の本になります。